宝蔵寺の昔話 房姫様物語 07

奈良県東部地内では有るが六十六か所の寺廻りで有る。生まれて始めての経験で旅での情けに涙したときも有った。

 各寺々へ納荷をして十日程予定を遅れて徳行寺に帰依をする。和尚様は「大変だったで有ろう」とその労をねぎらって呉れた。また、旅立の前と同じようにお寺でのお手伝いをする。

 時にして“よね”は二十一歳の娘盛りと成りお化粧なくとも美しい。また一、二年が立ちて旅に出たいと思うようになりて和尚様に相談して見たら「若い時でなけねば行けぬので、その気が有れば行って来なさい」と励まされ今度は岐阜美濃方面を和尚様より指定されて東農方面を巡拝する事と成る。前回の経験も有りて何も心配はない。奈良東部と同じように巡れば良い。

約一ヶ月後奈良よい岐阜美濃まで大分歩いてきた。細目村より野黒村に来て善通寺(現連田)浄蓮寺(現上田)大日寺(現苦沢)と納経を終り大日寺の石に一休みして居て知らぬ間に春のポカポカ陽気に誘われてなく鴬の声にうとうとと眠ってしまった。でも深く眠った訳ではなく、道を通る人話し声もうっつら聞き乍眠って居る側を通る悪童達が「オーイこんなところに女のお寺様が寝ているぞ」などと声も聞くが、暫くして通りかかったのが宝蔵寺の和尚様。起こしてくれて「尼さんこれからどこへ」と尋ねられ「私は大般若経六百巻を各寺に納めて旅を廻って居る六部でございます。」和尚様は「今日は日暮れも近いし私の寺はすぐ近くですので一晩泊って行きなされ」と云ってよねを連れて寺へ案内した。「有難うございます。ぢゃ本堂の縁の下でも廊下でも構いません。雨露だけ凌げればいいですから是非お願い致します。」「いやいやそんなに遠慮する事はないから」と云って夕食後身の上話など夜の更ける迄聞いていただいた。

お寺の朝は早く、朝の太陽が杉の木立に明の筋を引いている。よねは、和尚様に「大変お世話に成ったお礼に一、二日位お寺のお手伝いをさせて下さい。と願い出た。「そうしてくだされば大助かりです。是非共お願いいたします。」と和尚様。奈良徳行寺と同じ禅宗寺とてお勤め前の掃除から供物など準備を終りて、朝のお経をよねも和尚様の後に据りて上手に上げるので和尚様は驚いた。和尚様は「貴方様の都合も有るだろうが暫くこの宝蔵寺に居てお手伝をして貰えないか」と云った。よねは「私には後二十巻程納礼をせなばなりませんのでそれ以後なら宜敷しいのですが」「そうか。ぢゃそれから頼みます」と云った。

よねは約一か月東農方面まで足を伸ばして、福地、汐見、飯地、恵那方面まで巡礼。やっと大任をはたした安堵感で宝蔵寺に無事たどり着いた。和尚様と約束した明日より寺にておお手伝いをすることと成った。

[2019/09/09 投稿]