房姫様物語⑨
「よね」は大日寺まで来た時に大きな石の上で一休みした。季節は春で、ポカポカした陽気の中にウグイスの声も聞こえ、そのうちついウトウトと眠ってしまった。 しばらくしてそこを通りかかったのが、宝蔵寺の和尚さまだった。「や、こんな所で尼さんが居眠りしているぞ。風邪をひいたらいかん」和尚さまは「よね」を起こした。 「私は大はんにゃ経六百巻を六十六ヵ所のお寺に納めてゆく六部でございます」「よね」がそう説明すると、「今日は日暮れも近い。私の寺はすぐ近くなので。一晩泊まっていきなさい」和尚様はそういって「よね」を寺に案内した。 「よね」は宝蔵寺で夕食をご馳走になった。その翌朝、「とてもお世……more >>

房姫様物語⑧
「よね」は長い旅のお勤めを立派に果たしました。六十六ヵ所のお寺めぐり、十日ほど予定を遅れて、無事に徳行寺に戻ってきました。和尚さまも村人たちもみな大変に喜び、「よね」の労をねぎらいました。 「よね」は以前のように和尚さまのお手伝いをするようになりました。二十一歳の娘盛りで、お化粧などしなくとも、十分に美しい娘でした。「よね」はしばらくしてまた旅に出ておつとめをしたいと願うようになりました。 和尚さまにそのことを打ち明けて相談しました。「若いときでないとできないことだ」と和尚さまは賛成し、今度は岐阜の美濃から東濃をめぐるおつとめになりました。「よね」は再び出発し、美濃の細め村から……more >>

房姫様物語⑦
あるとき和尚さまの所に「六部となって旅に出られる人はだれかいないか」という話がきました。六部とは、六はんにゃ経六百巻を六十六ヵ所のお寺に納めてゆく人のことです。六十日ほどかけてお寺をめぐってゆくそれはもう大変な仕事です。 和尚さまは悩みましたが、この仕事を、「よね」にやらせてみようと思いおました。話を聞いた「よね」はとても不安でしたが、引き受けることにしました。 和尚さまは喜び、観音さまの像と、美しく輝く石の玉をくれました。またお寺の檀家は、身を守るための短刀をくれました。「よね」はそれらを大事に身につけて、長い旅に出発しました。 引用:福地いろどりむら通信 21号掲載……more >>

房姫様物語⑥
「よね」は翌朝から人が変わったように熱心に働く子になりました。弟を背負ったままで境内の掃除をするのは、決して楽な仕事ではありません。それでも「よね」は落葉清掃などとても熱心にやるようになり、和尚さまを関心させる子になりました。 その後は和尚さまの毎日のお勤めの準備も手伝うようになりました。お経も毎日聞いているうちに、いつの間にか覚えてしまいました。 その後、数年がたちました。弟を背負わなくてもよいようになると、檀家の法要や葬儀にも和尚さまについていってお手伝いをするようになりました。 引用:福地いろどりむら通信 20号掲載 構成・挿絵:北野玲/参考文献「宝蔵寺の昔話・房……more >>

房姫様物語⑤
「まんじゅうを食いたいのはよくわかるが」和尚さまはやさしい声で言いました。「仏さまのものを、黙って食ってはいかん。食いたければ、私にまんじゅうをくださいとなぜ言わなんだ。まして黙ってとったうえ、指でアンだけ食って、外の皮だけ仏さまにお供えするとはけしからん」 「よね」はがまんしてきた涙と声が一気にふきだし、大声で泣きました。「和尚さま、ごめんなさい。もう人のものには手をだしません」心からあやまりました。 「わかればいい」和尚さまはそう言って、仏さまにお供えしてあったウイロウをくれました。和尚さまの前で堂々と食べるウイロウは本当においしいウイロウでした。「よね」はうれしくて、おい……more >>

房姫様物語④
翌朝になりました。「よね」はいつものように弟を背負ってお寺に行きました。今朝は和尚さまはどんなお顔だろう。心配でなりませんでした。和尚さまは朝のお勤めの用意で忙しそうに掃除しておられました。昨日のまんじゅうはもうありませんでした。 お経が始まるとき、和尚さまが言いました。「よね、ここへ来て、私と一緒にお参りしなさい」「よね」は和尚さまの後に正座し、弟を背負ったまま小さな手を合わせました。いつ和尚さまのカミナリがおちるかと心配で心配で、朝のお勤めも上の空でした。 お経が終わると、和尚さまは静かに話しかけました。「よね、昨日のことだが、私の留守に仏さまのまんじゅうを黙って食べたのは……more >>

房姫様物語③
あまいアンをお腹いっぱい食べたものの、家に帰った「よね」はだんだん不安になってきました。こんなことをして、ほとけさまのバツが当たったらどうしよう。「よね」は心配で心配で、おふとんにもぐりこんでしまいました。 ばんごはんにも「よね」が起きてこないので、お母さんは心配になりました。「よね、どうしたの?」とお母さん。「お腹がいたい」と「よね」はウソをつきました。本当はお腹がいっぱいで、ばんごはんが入らないのでした。 お母さんは心配してオカユをつくり、「よね」のまくらもとに置きました。ところが「よね」がそれも食べないので、今度は煮つめたセンブリを持ってきました。「これを飲みなさい」セン……more >>

房姫様物語②
その日、徳行寺の和尚さまは外で用事があるらしく、昼前にお寺を出ていきました。「よね」はふと思いついた方法をどうしてもやってみたくなり、とうとうほとけさまのまんじゅうに手をのばしてしまいました。 お寺の階段に座り、饅頭に人差し指をつっこんで、中身のアンだけを上手にすくって食べてしまいました。背中の弟にもすくったアンを指で食べさせました。 すっかりアンを食べてしまうと、外側の白いところをそのまま残して、もとどおりの場所に戻しました。日も暮れかけたので、家に帰りました。 引用:福地いろどりむら通信 16号掲載 構成・挿絵:北野玲/参考文献「宝蔵寺の昔話・房姫様物語」(山田貞一……more >>

房姫様物語①
「よね」という名前の娘がいました。寛延元年(1748年)、奈良県柏村の貧しい家に生まれました。男3人、女4人の兄弟を持つ次女でした。 「貧乏人の子だくさん」と言われているとおり、生活は大変で、年上の子供たちは、家の手伝いや子守など、一生懸命に働きました。「よね」も12歳となり、弟たちの子守が毎日の仕事でした。 ある日、「よね」は幼い弟を背負い、近くにある徳行寺の境内で、子守をしていました。ふとほとけさまの祭壇を見ると、それはそれは大きな饅頭が、日と重ねしてお供えしてあります。 「よね」はそのまんじゅうが食べたくて食べたくて、つばを飲みながらあれこれ試案しました。なんとかう……more >>